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「 CADで製作中です 」
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「 赤マフラア 」
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11/14:
「 病床の夢 」
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世捨て人の老ボディビルダーの営む生活雑貨店に入ったのはもう夕方も近くなるころだった。
それまで大量の布で敷き詰められた住処で心地よくまどろみ続けていたのだけれど、
覚醒してからは、その心地よさと温かすぎる室温は退屈を促進させるものとしかならず、
住処を這い出てることにしたのだった。
退屈しのぎの徘徊と、牛乳の補充をすべく町へ。そしてこの店に至る。

古風な格子模様の扉を開けて店に入ったとき、世捨てボディビルダーの姿はなかったが、
それは別段珍しいことではなく世を捨てたボディビルダーとして当然の行いともいえた。
彼は誰にも会いたがらなかったし、彼を尋ねる人間もいない。
わたしを除いては。

世捨てボディビルダーの店は奥に細長く、狭い。店の奥まで続く大きな棚が中央にあり、そこには様様な商品が並べられていた。
わたしは棚に近寄り目当てのものを探す。牛乳、シリアル、ガムテーブ、ハンガー、ビニール紐。店内は薄暗い。

「・・ヨスタ・・ナァ。デア・・ソレアデ・・ハハアハ」
店内は静かで店の外からは誰かの話し合う声が聞こえた。
その声はくぐもっていてどのような内容の会話なのか、判別することはできない。
牛乳は見当たらず、ガムテープは手の届かない高さに。シリアルは棚の下のほうであったけれど床のガラクタが邪魔をして手が届かなかった。
わたしの体は120cmぐらいまでしかなく、手も小さいのだ。

ガラクタに埋もれたまましばらく横たわっていると、奥の開け放したままの扉から世捨て老ボディビルダー姿をあらわし、
ガムテープやビニール紐を掘り出してレジの台の上に並べていった。
うつぶせのままわたしは世捨てボディビルダーに挨拶をする。あいまいな彼の返事。
シリアルを取ろうとしていたわたしの痴態にたいして関心を示した風もなく、わたしの体躯もレジの上に載せられた。
わたしはスカートの裾をようやく直した。

わたしは彼に最近起きたことなど他愛のない話をしたのだけれど、やはり関心を示したようでもなかった。
私の方も、あまり重要でもないことを話すことや、彼の反応よりも、店の外から聞こえる話し声の方が気になっていた。

しばらく時間がたっていた。店の中は奥の方まで西日が差し込みオレンジ色の光で染められていく。
気が付くと、きれいな夕焼けの中で、老ボディビルダーはようやく言葉らしい言葉を語っていた。


・・残念ながらその言葉は難しい単語やよくわからない言葉回しが多く、
私にはほとんど理解することができなかったし、私はその話を聞くことより別のものに気をとられていた。
夕日がきれいなのだ。
彼の目の中にオレンジ色の焔が映っていてその光で睫が白く見えた。
わたしの目の中にもあるのだろうかと太陽の方角を見る。太陽は白く輝き空はオレンジに燃えていた。
老ボディビルダーが語り終える。とある劇での主人公のセリフだといった。

棲家では寝てばかりいたため体を動かしたくてしょうがなかったわたしは、
老ボディビルダーとプロレスごっこのような遊びをした。
プロレスごっこというと何か誤解を受ける人もいるみたいだけど、実際プロレスごっこだった。技とか何とかは良く知らないけど。
プロレスごっこをするには店の中は狭いので外に出たが、失敗だった。

町には老ボディビルダーを知る人がいる。

老ボディビルダーと顔を合わせて死んだ人を見たかのように驚く人がいる。
老ボディビルダーは気まずそうに顔を伏せる。
老ボディビルダーを知る人たちは、そそくさとその場から立ち去っていった。

しばらくして日が落ちた。町の大通りを無人のバイクが走っていて、
そのバイクは反対車線を横切り、並木にぶつかってとまった。
バイクが来た方を見やると、数人の人影が見えた。水色のスカジャンを着た老婆がイライラと怒りの表情で歩いてくる。
「ノリタカッタバイクに乗りたかったバイクニノリタカッタ」
どうやら走行中のバイクのライダーをこの老婆が引き摺り下ろして、バイクのみがそのまま走り去ったらしい。

私は好奇心のままに引きずり降ろしがあった現場を見に行くことにする。
老ボディビルダーとはお別れ。
老ボディビルダーは揉め事に巻き込まれなければいいが、言った。
だいじょうぶだよ。と私は返す。

彼との距離がだいぶ離れてから彼は大声で私に言った。

「ホームページの更新、そろそろしたほうがいいんじゃないかね」

私は夢から覚めた。





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